嗚呼、親父
俺の視界は涙で滲んだ。

(親父……親父……)

心の中で何度も呼びかける。

保身に動く親父を責める気は当然ない。だがやはり、親父は俺の知っている親父であってほしい。駄目なことは駄目だと言える親父でいてほしい。

だがそう願う俺(家族)のことを思えばこそ、親父は立場を守る為に耐え忍んでいるのかもしれない。下手をすると親父は職を失い、その結果、一家離散の危機に陥る、というこもあるのだ。

しかし――俺は諦めきれなかった。

だからといって小学生の女の子相手に、そこまで卑屈になることが正しい選択だとは、どうしても思えないのだ。

俺は合格したばかりの大学を辞め、自分が働いたならば、ということを考え始めた。と――

「おい……」

険しさを帯びた、親父の声が聞こえた。はっとして親父を見ると、鋭い目つきでこちらを睨んでいる。

それは間違いなく、俺の意志を確認する視線。

俺は黙って、力強く頷いた。

(そうだ、いけ、親父。後のことは気にするな。もしものときは、俺が食わしてやる!)

俺の意志が伝わったのか、親父が再び口を開く。

「何してる……」

(言え。言ってしまえ。敵はただの小娘だ!)

「早く食べなさい」


ふと横を見ると、美奈ちゃんはやはり肉じゃがをつついている。

(ああ……)

俺はどうしようもなくなり、黙って目蓋を閉じた。その拍子に涙が零れ落ち、頬を伝う。俺は心の中で呟いた。

嗚呼、親父……と……。



終わり。
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