悪魔のようなアナタ ~with.Reiji~
途中で見逃したのかもしれない。
灯里は踵を返し、1号車を出て2号車に続くデッキに入った。
その時。
ドアに寄りかかり、ガラスの窓越しに風景を見ている男の姿に灯里は足を止めた。
とたん、その目が零れんばかりに大きく見開かれる。
黒くまっすぐな黒髪に、朝の湖を思わせる透明感のある瞳。
すっと伸びた鼻筋に完璧なラインを描く白い頬。
濃いグレーのコートを着、腕を組んでじっと窓の外を眺めているその姿は……。
――――見間違えるはずもない。
肩を震わせる灯里の視線の前で、玲士はゆっくりと振り返った。
その瞳が灯里を映した瞬間、目を大きく見開く。
「……灯里?」
掠れた声で玲士は呟き、驚愕の眼差しで灯里を見る。
低いテノールの声に灯里は心の中の何かが溶けるような気がした。
溶けて、流されて……それはいつのまにか涙となって灯里の目尻に溢れた。