愛を教えて ―番外編―
何も知らされないまま、万里子が連れて行かれたのは、タワーの三階にある『スパ』だった。

さっき食事をした実質六階にあたるロビィ階の三つ下だ。万里子にすれば地下に感じる。トレーニングジムや温水プールにサウナ、なぜか上の四階は外になり、テニスコートやゴルフの練習場まであった。

結婚前、卓巳からこのスパに誘われた。そのときは色々理由をつけて断る。それ以来、卓巳に誘われたことはなかったが……。


「卓巳さん、わたし、プールはちょっと」

「心配はいらない」

「え? あの」

「さあ、おいで」


さっさとドアを開け、卓巳は万里子を中に引っ張り込む。館内は静かだった。人の気配はまるでない。


「あの、誰もいないんですか?」

「ああ。プールは九時半、サウナも十時で営業終了だからね」

「もう十時回ってますよ、入ってもよかったんでしょうか?」


驚いて引き返そうとする万里子を卓巳は引き止めた。


「君と……泳ぎたい」

「あ、わたし、水着になるのは」


結婚式のあと、パーティドレスの二の腕を出すデザインがかなり負担だった。それが水着となると……万里子は怖くてどうしようもない。


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