愛を教えて ―番外編―
だが、卓巳は軽く微笑み、


「それも問題ない。さあ、見てみなさい」


そう言って、万里子をプール横の女性用更衣室に連れて行く。

入った瞬間、万里子は目を丸くした。

壁に掛かっていたのは水着だった。色もタイプも様々な、それでいて、サイズは全て万里子ピッタリに揃えてある。百着近くはあろうかという水着に、万里子は開いた口が塞がらない。

中でも一番目立っているのは、ダイビング用の青いウェットスーツ。

もちろん、他にも見るからに競泳用とわかる真っ黒のロングスーツタイプもあった。しかし、インパクトはウェットスーツの比ではない。

この一流ホテルのスパで、ウェットスーツを着て泳ぐ人間など、過去ひとりもいなかっただろう。そう思うと、万里子の中に違う種類の恥ずかしさが込み上げてくる。


「あの、卓巳さん、これって?」

「従業員も誰も来ない。僕たちだけの貸し切りだ。深夜の十二時まで借りられることになっている。――万里子、僕は君の水着姿が見てみたい!」

「ウェットスーツでも構わないんですか?」

「ああ、構わない! それで君が一緒に入ってくれるなら。だが、どうしてもイヤだと言うなら、無理強いはしないよ」


と言いつつ、卓巳の瞳は一歩も譲らない懇願モードだ。


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