愛を教えて ―番外編―
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同じ町内だが道路を二本ほど挟んでいるので班分けが違う。それに、“美馬”の名前を聞くと卓巳が良い顔をしないため、万里子も親しい付き合いはしてこなかった。

古さで言えば、美馬家は代々この地に住んでいるようだ。

藤原家は卓巳の祖父がこちらに移ってきたと聞いた。そのせいか、どの家にも劣らないようにふんだんに資金を投入し、豪奢な西洋風のお屋敷を造らせたという。ステンドグラスや暖炉など、実際にヨーロッパから輸入したというのだから驚きだ。

美馬家の周囲には建設途中を含め、新しい家が建ち並んでいた。まだ更地の場所もある。

庭は手のかかる樹木は伐採し、芝が敷き詰められている。どうやら、職人の手が入っているようではなかった。

車も以前は玄関前まで乗り入れていたようだが……。今は、門の脇に数台分の駐車場が設置してあるくらいか。


万里子の来訪に出てきたのはこの家の女主人、愛実だった。


「すみません、藤原様にわざわざお越しいただいて……」


そういって、彼女自身がお茶を淹れ、万里子の前に出してくれた。


「いいえ……こちらこそ。事故が起こったのは昨日でしたのに、お詫びにうかがうのが遅くなってしまって。本当に申し訳ございません。北斗くんのお怪我はいかがですか?」


万里子が頭を下げると愛実は静かに首をふった。


「そんな、暴れはじめたのは北斗が先と聞いています。止めようとしたお子さんとぶつかったとか……。藤原様のお子様だったなんて。大樹くんにお怪我がなくて何よりでした」


愛実の言葉に万里子は気がついた。

どうやら、幼稚園側は藤原の名前すら出さなかったようだ、と。


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