愛を教えて ―番外編―
「ひょっとして……幼稚園でのことをご存知なのかしら?」

「はい。今の経営陣、美馬常務にしても何も罪は犯しておられません。なのに、先代社長の事件で色々なところから責められることになってしまって……。お若い奥様がお気の毒でなりません。大奥様のお世話までしながら、周りに遠慮ばかりなさって」


そして香織が口にした愛実の苦境は、万里子の予想を大幅に超えたものだった。



先代社長の逮捕とともに美馬家は四散した。

それぞれが持てる個人資産を手に逃げ出したのだ。残ったのは美馬の屋敷に執着した先代社長の妻、弥生だけだったという。認知症と診断されたが、誰も介護しようとせず……。
それに名乗りをあげたのが美馬夫妻だった。

ところが、そうなると文句を言いたくなるのが人間である。


『まんまと夫の愛人の息子に家も会社も乗っ取られて……』

『妻といっても、もとは“援助交際”だったのでしょう? 女子高生を妊娠させたような男が美馬本家の主だなんて』

『弥生様もお気の毒に、どんな目に遭わされているかわかりませんものね』


美馬夫妻が結婚する直前、興味本位で書きたてられた週刊誌のネタを引っ張り出し、愛実は白い目で見られた。



「奥様はできれば区立の保育園に入れたいと思われたそうなんですが……。常務がお子様たちにはできる限りの教育をしてあげたい、とおっしゃられて今の幼稚園に」


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