愛を教えて ―番外編―
万里子は週刊誌などはあまり目にしないが、それでも愛実の夫が苦労人であることは聞いている。

卓巳とは違う形で親に振り回された典型のようだ。幼児期にたどって来た道は似ているので、わかりあえば友人になれると思うのだが……。

こればかりは、男性と女性の心理は違うのだ、と納得するよりない。


「今度の件で、奥様はお子様たちを公立校に転校させようとお考えのようです。うちの娘が北斗くんと同じ歳なので、できれば同じ幼稚園に、と。でも、その場合、ここから引っ越さなければ通えませんでしょう?」


香織はそう遠くはないが世田谷区に住んでいるという。

通えない距離ではないが、区立幼稚園は区民でなければ無理だろう。


「でも、それでは大地くんはどうなさるの?」

「それを悩んでおられまして。大地くんは成績も良くて問題なく通われているのに、親の都合で公立校に変えるのは……」


幼稚園も小学校も母体は同じ、都内では有名な私立校だ。大学もあるが、多くの優秀な生徒は国立大学か或いは、さらに上位の私立大学を目指すという。ということは、このまま行けば高校まで同じ父兄とPTAで顔を合わせ続けることになる。


「藤原様の責任などとは思っておりません。ただ、風向きを変えることができるのは……万里子様だけではないでしょうか? どうか、よろしくお願い致します」


そういうと、香織は深々と頭を下げるのだった。


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