愛を教えて ―番外編―
(5)妻の交渉―万里子
「なんだ、そんなことか。それがどうしたと言うんだ?」
万里子が問いただしたとき、それが卓巳の第一声だった。
子供たちの前で『美馬は悪いことをしてきたんだ。美馬の人間には気をつけろ』そんな言葉を口にするなんて、万里子には正しいことだとは思えない。
だが、卓巳にすれば違うという。
「理想を言えばそうだろう。だが万里子、子供たちの未来を決めてしまう気はないが……。藤原家の息子として生まれた以上、誰かにこの会社を継いで欲しいと思う。――君は反対か?」
「いいえ……そんなことは言ってません。できるなら、兄弟で助け合って守っていって欲しいと思います。でも、それとこれとは……」
「同じだ。友人だと思えば甘えも出る。助け合いの精神だけでは、これだけの会社を維持していくことはできない」
卓巳は無造作にネクタイを解き、万里子に差し出した。
それをいつもどおり受け取りながら、
「そんなことを言い出したら、子供たちは友だちも作れません。わたしは……大学時代に誰とも親しい付き合いをしてこなかったから、彼女たちとはたまに会うくらいになってしまいましたけど。卓巳さんにとって宗さんは、ただの秘書ではなく親友でしょう?」
幼稚園・小学校時代の友だちと、大人になっても付き合いがあるのは稀ではないだろうか? 卓巳が宗と親しくなったのも大学卒業後だと聞く。
万里子が問いただしたとき、それが卓巳の第一声だった。
子供たちの前で『美馬は悪いことをしてきたんだ。美馬の人間には気をつけろ』そんな言葉を口にするなんて、万里子には正しいことだとは思えない。
だが、卓巳にすれば違うという。
「理想を言えばそうだろう。だが万里子、子供たちの未来を決めてしまう気はないが……。藤原家の息子として生まれた以上、誰かにこの会社を継いで欲しいと思う。――君は反対か?」
「いいえ……そんなことは言ってません。できるなら、兄弟で助け合って守っていって欲しいと思います。でも、それとこれとは……」
「同じだ。友人だと思えば甘えも出る。助け合いの精神だけでは、これだけの会社を維持していくことはできない」
卓巳は無造作にネクタイを解き、万里子に差し出した。
それをいつもどおり受け取りながら、
「そんなことを言い出したら、子供たちは友だちも作れません。わたしは……大学時代に誰とも親しい付き合いをしてこなかったから、彼女たちとはたまに会うくらいになってしまいましたけど。卓巳さんにとって宗さんは、ただの秘書ではなく親友でしょう?」
幼稚園・小学校時代の友だちと、大人になっても付き合いがあるのは稀ではないだろうか? 卓巳が宗と親しくなったのも大学卒業後だと聞く。