愛を教えて ―番外編―
詳細は不明だが、卓巳は女性絡みの問題で美馬に良い感情を持っていない。それは新婚当時、一条弁護士に話していた言葉で明らかだ。


「ば、ばかを言うなっ! そんなこと」

「いいんです。その方のことを覚えている限り、きっとわたしのお願いなんて……」

「わかった! やる。やればいんだろう。万里子……君ほどの策士を私は知らない。我が社で雇いたいくらいだ」


万里子が本気で疑っていないことを承知で、卓巳は折れてくれたみたいだ。不満そうに前髪をかき上げ、眉間にシワを寄せている。

出逢った頃にくらべたら、少し目尻にシワが増えた。でも端正な顔立ちと誠実な気性は変わらない。加えて、万里子や子供たちのためならどんな犠牲もいとわない心を持っている。

卓巳は永遠に万里子の騎士(ナイト)なのだ。


「ありがとう、卓巳さん」


万里子は背伸びをして卓巳に口づけた。彼の胸に手を添え、頬を寄せる。


「……君には敵わない」

「そんなこと……。卓巳さん、お背中流しましょうか?」

「背中だけ?」


卓巳の唇が万里子の耳たぶに優しく触れる。

万里子はクスッと笑って、「ううん、全部よ」そう答えた。


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