愛を教えて ―番外編―
一歳の誕生日を迎えることなく、やせ衰えて餓死した藤臣の異父妹。そのときの彼は、今の大地とそう変わらない年齢だったという。

母が亡くなり、母の夫は実子である娘と継子の藤臣を置き去りにして姿を消した。藤臣はたったひとりの家族が守れなかった自分を今も責めている。

親からもらえなかった愛情と教育。それらを手探りでも我が子たちに与えようとしていた。

愛実には藤臣の必死さがわかる分だけ、反対することなどできない。


(でも……本当にこのままでいいのかしら?)


大地は何も言わない子だが、北斗のほうはたまに母親に泣き言を言う。


『パパは僕よりお兄ちゃんとしーちゃんが好きなんだ。お兄ちゃんのときは、入園式も入学式も出てるのに。僕の入園式には来てくれなかった。お兄ちゃんが年少のときは、一緒に運動会だって……』


網走では自由の利く仕事内容だった。大地が幼稚園に入った年は、結婚して最も安定していた時期かもしれない。

だが、ちょうど北斗が幼稚園に入る直前、美馬グループの事件が起こったのだ。

藤臣の父、一志がインサイダー取引で逮捕され……。藤臣はとても子どもの幼稚園行事に出るどころではなくなった。


愛実はそのことを北斗に話して聞かせるが、やはり寂しさは消せないのだろう。

大地の運動会の映像、クラス対抗父兄リレーで藤臣が一着になるシーンを何度も見て、悔しそうに涙ぐんでいる。その姿を見るたび、愛実のほうが悲しくてたまらない。


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