愛を教えて ―番外編―

(7)ママの悩み

「あ、の……万里子さん。それは、本気でおっしゃっておられるのかしら?」


六月半ば、エコ・カーニバルの実行委員会が行われた。

幼稚園のPTA用会議室を使い、十数人の実行委員が集まる。その会議中、万里子が言葉に全員の動きが止まった。


「ええ、もちろんです。クラスごとの出し物として、わたしたちの担当は喫茶コーナーと食べ物のお店が一軒。全体のバランスを考えて、焼きそばがいいと思うんです。ここの担当を、うちの主人と北斗くんのパパにお願いしたいと思いまして……」
 

日本最大と言われるコンツェルンの総帥である藤原卓巳が、幼稚園のイベントで焼きそばを焼く――。

それだけでも驚きのニュースだ。

加えてその相棒が、かつて最大のライバルと言われた美馬グループの生き残り……美馬藤臣となれば。


現在、藤臣は新しい会社を率い、貿易部門で真っ向から卓巳に勝負を挑んでいるという話。
そんなふたりの息子が同じ幼稚園に通っているのだ。それは、園や周囲の大人も気を遣うというものだろう。


「で、でも……ご主人ならおいでくださるかもしれませんけれど……。焼きそばを焼いていただくというのは、どんなものでしょう」

「そうですわよね。それに……美馬さんのご主人は一度も園の行事においでではありませんし……」


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