愛を教えて ―番外編―
そう言って視線を向けられたのは、一番端に座る愛実だった。


愛実はひとり娘をPTAの集まりに連れてきていた。

先代社長の妻である弥生の面倒は専門の介護士と付き添いの家政婦を雇っている。小さな子どものいる愛実ひとりでは、とても面倒はみられない。実際、家の管理と食事の世話だけで手一杯の状況だ。

だが、子どもの面倒をみてもらう人手までは……。


そんな愛実に、万里子は声を掛けてきた。


「愛実さん、ご主人に話していただけたかしら?」

「え……ええ、まあ」

「予定は大丈夫そう?」

「なんとかしてもらえると思います……」


愛実が小さな声でうつむいたまま答える。

すると、万里子は嬉しそうに声をあげ、


「そう、よかった! うちの人もどうにかしてくださるそうよ。ただ、今月末はどこも株主総会で忙しいみたいだから……準備はわたしたちでしなければ無理みたいね。喫茶コーナーのほうを皆さんにお任せして、わたしたちは焼きそばの準備をしましょう」


鉄板はどこそこからお借りして、買出しは何日に……と次々に決めていく。

周囲はあんぐりと口を開けたまま、万里子の指示にうなずくだけだった。


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