愛を教えて ―番外編―
だが、さすがの万里子も、


「た、卓巳さん……あの、いい加減泳ぎませんか?」

「泳ぐ?」


卓巳はここが温水プールであることも、「一緒に泳ぎたい!」と万里子を誘ったことも、完全に忘れていた。


当初、海やプールに行けなくなった万里子のために、彼女が心置きなく楽しめる場所を提供するつもりだった。万里子が着られる水着を探したのもそのためだ。

それが、ふと気づけば目的が“万里子の水着姿を見てみたい”という気持ちになっている。

反省した卓巳は万里子をプールに誘う。


水温は三十一℃、長さ十五メートル、幅約五メートル。

そこは距離を泳ぐことを目的として作られたプールではない。都会の中のオアシス、まさにそんな感じだ。

すぐ横には三十九℃に設定されたジャグジーがあり、体を温めてから上がれるようになっていた。


卓巳の場合、社長としての付き合いもあり、あちこちのジムやスパの会員になっている。ジムのほうは使うが、年に一度も泳ぐことはない。

嫌いな訳ではないが、単に面倒で時間が取れないという理由からだった。


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