愛を教えて ―番外編―
食品は衛生面を考え、学校と取引のある業者に注文してあるが、細々したものの買出しは別だった。保健所の申請や、専門器具の手配もある。それに、他の母親たちはやる気はあっても要領が悪い。普段は人任せにすることが多いのだろう。

その中で、最も多くの使用人に囲まれているはずの万里子が、一番テキパキとして段取りが良かった。

それもそのはず、万里子は大学のとき、幼稚園と小学校の教員免許を取ったという。


『教育実習とボランティアでしか教壇には立ってないから……実際の経験はないのよ』


万里子は控えめに言うが、愛実には彼女が眩しかった。

同じことをしろと言われても、愛実にはできないだろう。生後四ヶ月の娘がいるから、という理由もある。でもそれだけじゃないことを、愛実自身がわかっていた。
 

(高校時代はバイトで追われてたし、三年のときはほとんど通ってないんだもの。それに、お友だちを作るのも苦手だし……)


考えてみれば、結婚前から十二歳違いの末弟・慎也の面倒をずっと見てきた。


高校三年になってすぐ藤臣と出逢った。

お金のために愛人になることを承諾したものの、最初から藤臣に惹かれていた。半年後には妊娠、出逢いから一年も経たずに結婚。藤臣に子どものための結婚ではなく、愛しているからと言われたとき、愛実は飛び上がるほど嬉しかった。

でも、藤臣が優しくなったのは結婚してからなので、ふたりきりの甘いデートの思い出もない。

結婚前の藤臣は自分本位で、一緒にいるときはデートというよりセックスばかりだった。結婚後は何年も家計のやり繰りと子育てに追われてきた気がする。


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