愛を教えて ―番外編―
万里子は目を見開く。


「いいか? たとえ何があっても、ひとりも君には渡さない! 私の息子たちだ。本気で怒らせて勝てると思うなよ。子供と離れたくなければ、これ以上私に逆らうなっ!」

「……社長……」


背後で宗の声がする。それは微妙に震えていた。
 

(ま、まずかったか? 万里子が泣き出したら……すぐに追いかけて謝ろう)


卓巳の中で、謝罪のパターンと効果的な土下座の方法まで思いついたとき、万里子の口から予想外の言葉がこぼれた。


「そうですか。では、わたしは一条先生にご相談いたします」

「……え?」


万里子の瞳から溢れたのは涙ではなく、失望の光。引き止める暇もなく、万里子は身を翻してスタスタと出口に向かう。

卓巳は怒りに任せて、とんでもない過ちを犯したことに気づいた。

だが、とても取り消せる状況ではない。


「社長、すぐに後を追ってください。会議のほうは理由を作って延期させますから」


宗の言葉を卓巳はあっさり却下した。


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