愛を教えて ―番外編―
「馬鹿を言うな。夫婦喧嘩で妻のご機嫌を取りにいったとでも言うつもりか? そんなこと……美馬に笑われるだけだ!」

「ですが……あの言い方は拙いと思います。奥様は本気で怒っておられましたよ」

「私がいつも折れてやってるのをいいことに、調子に乗ってるんだ。たまには、いい薬だろう」


ロビーから消え去った万里子のことをわざとらしく無視して、卓巳は会議の書類に目を落とす。


「何が恥ずかしいだ。ロビーといってもホテルはホテルだ。帰ったら、コンコンと説教してやる!」


小声でブツブツ言い続ける卓巳に、宗はポツリと呟く。


「帰ったとき、家にいらっしゃるといいんですが……」

「……」



直後の会議は散々だった。まさか本当に、藤臣に当たるわけにはいかない。


卓巳は平静を装いながら、万里子が藤原邸に帰宅するよう、祈り続けていた。


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