愛を教えて ―番外編―
双子の姉妹の父親は宗行臣、以前と変わらず卓巳の個人秘書を務めている。

今から六年前、結人が生まれる直前に、彼はトラブルに巻き込まれた。正しくは、宗に思いを寄せる女性が事件を起こし、彼は被害者に過ぎなかったのだが……。

余程、日頃の行いが悪かったのだろう。誰も彼に同情を寄せることはなく。事件と共に宗の名前が取り沙汰されるのを避けるため、卓巳は二年間、彼を個人秘書から外さざるを得なかったのである。


「お待たせ致しました、社長。奥様も、本日はお招き頂きありがとうございます」


宗は抱えていた末娘、絢音(あやね)を芝生の上に下ろしつつ、卓巳に頭を下げる。卓巳の三男、光希と同じ歳で、ふたりは兄や姉たちのようには自在には動けないが、仲良く遊び始めた。

かつてのプレイボーイは、今は可愛い娘たちに囲まれてご機嫌である。そのせいだろうか? 卓巳より四歳も年上であるのに、宗は今でも三十代半ばにしか見えない。


「どうしたの? 藤音ちゃんが、ママが怒ってるって言っていたわ。また喧嘩?」


万里子の問いかけに、


「いや、喧嘩という訳じゃ……」

「聞いてください、万里子様!」


夫の言葉を遮って万里子の前に飛び出してきたのが、宗の妻、雪音だ。

藤原邸のメイドをしていたのは五年前のこと。お互いの親に挨拶を済ませ、宗が東京に戻りしだい、結婚することが決まった、のだったが……。


< 2 / 283 >

この作品をシェア

pagetop