愛を教えて ―番外編―
「……りこ。万里子? どうしたんだい?」

「い、いえ。なんでも」

「気分が悪いなら、上がろうか?」


まさか卓巳に見惚れて、とんでもない部分を想像していたとも言えず、万里子は黙り込む。

すると、卓巳は何を思ったのか、水中で万里子を横抱きにした。


「きゃっ!」


世間で言われる“お姫様抱っこ”である。

肌の密着度に万里子は眩暈を感じていた。


「無理はダメだ。プールは随分久しぶりなんだろう? 今日はもう上がろう」

「でも、まだ三十分も経ってませんよ」

「君が気に入ってくれたなら、いつでも貸し切りにする。なんなら、ロンドンからオーストラリアに直行してもいい。ゴールドコーストに別荘とプライベートビーチがある。来年の夏はエーゲ海に行こう。島をひとつ所有しているから、そこで泳げば誰にも見られない」


卓巳は嬉しそうに語りながら、プールサイドのチェアに万里子を座らせようとした。

プールを出ても、卓巳は平然と万里子を抱きかかえたままだ。少しも重い素振りを見せない。


万里子は思わず、そんな卓巳の首に手を回して抱きついた。


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