愛を教えて ―番外編―

(16)味方

「美月ちゃん! 美月ちゃん! 美月ちゃーん!」


園内に入るなり、ひとりの少女に向かって突進していく次男坊の姿に聡は失笑を禁じえない。


(アイツほどの天真爛漫さがあれば……人生は楽しいかもしれない)


誰に似たのか、真は本当に明るくタフな子供だった。

怒られたり喧嘩したりして、泣き出すこともあったが、三十分ほどで復活する。成績はどうにか平均点で、入学当初は気にしていたみたいだが、今は体育の時間が一番楽しそうだ。


一方、夏海は顔見知りの先生や母親たちと挨拶をしている。

こうなると女性は亭主の存在を忘れて、話し込んでしまうのが常だった。
 

「おはようございます、一条のおじさま」


聡が夏海のかなり後方に立っていると、真に連れられ藤原美月が前までやってきた。

紺色のセーラーカラーのワンピースを着た可憐な少女が、優雅に頭を下げる。


入学式のときは遠目に見ただけだった。聡の大学の後輩、藤原卓巳の従弟の娘だという。

入学生代表の挨拶をするくらいだから成績はトップ、しかも、六歳に思えないほど大人びている。三歳のころに母親を亡くしたというから、そのせいかもしれない。
 


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