愛を教えて ―番外編―
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「え……っと、私、遊戯室の喫茶コーナーに入ってますので……」


愛実は気を遣ってそんなことを口にする。

どうやら、万里子と卓巳の間に漂う、微妙な空気を読んだらしい。


「いいのよ、愛実さん。ちょっと様子を見に来ただけだから……。この人も、わたしより若い愛実さんと一緒のほうが楽しいみたいだし」


言わなくてもいいことをついつい言ってしまう。

卓巳の朴念仁で不器用なところに惚れたのは事実だが、モノには限度がある。結婚して八年経っても同じままでは、さすがの万里子も嫌味のひとつくらい言いたくなるだろう。


そしてそれは、卓巳も同じらしく……。


「美馬が来ているかどうか気になって見に来ただけだろう? ご覧のとおり、美馬は来ていない。残念だったな」

「ええ、本当に」


万里子が澄まして答えると、卓巳は思いっきり無視して鉄板に向き直った。
 

「……申し訳ありません」
 

静かな声でぽつりと答えたのは愛実だった。


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