愛を教えて ―番外編―
彼女は今にも泣きそうな顔でエプロンの前を握り締めうつむいている。


「あ、いえ、そういう意味じゃないのよ。まだまだこれからだし、お仕事が終わったら、きっと駆けつけて……」

「いえ、私……本当は北斗のこと、話してないんです。先代の不祥事が原因で、園のお友だちに仲間はずれにされてるって。聞いたらきっと、どんなに大変でも、無理をして来てくれると思うから……」

「無理?」


愛実の言葉に万里子はドキンとした。

その無理を、万里子はお願いしてしまった気がする……。


「主人は幼稚園の行事とか、本当は出たい人なんです。自分が小さいころ、何もしてもらえなかったから。網走では本当に熱心でした。そんなとき、美馬の本社で事件が起こって……変わった名前だから、すぐに私たちも色々言われ始めて……」


だから、無理をしてまで藤臣に幼稚園行事に来て欲しくはなかった。愛実ひとりの力でどうにかしたかった、と言う。


「結局……何もできないくせに。せっかく、万里子さんが計画して下さって、藤原さんまでこうして来てくださったのに。主人は多分、来られないと思います。絶対に来て欲しいって言わなかったから……。代わりに、秘書の見習いで入っている私の弟を寄越すと言ってました。本当にごめんなさい」

 

万里子は卓巳の顔が見れず、うつむいていた。

きっと、『ほら見たことか、余計なことをして』そんな顔をしているはずだ。
 

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