愛を教えて ―番外編―
「ごめんなさい、は無しだ。――愛実、沖縄の海を覚えてるか?」


結婚前にふたりで行った、いわゆる婚前旅行である。

正確には、あの当時、愛実は藤臣の愛人だった。沖縄では子供の頃の愛実を知っている男性が現れ、藤臣との関係を知られてしまい……。その男に愛実は襲われ、酷い目に遭わされる寸前で藤臣が助けに来てくれた。

海より先にその男の存在を思い出し、愛実の瞳は曇る。


「愛実、あんなロクデナシのことは思い出すな。思い出すのはビーチで楽しんだことだけでいい」


藤臣に言われて愛実は赤面した。

美馬家の別荘がある島にプライベートビーチがあった。そこは昼間でもふたりきりで……。チェアだけでなく、砂浜の上でも全裸にされ、何度となく藤臣に抱かれたことを思い出す。


「も、もう……藤臣さんたら」

「あのビーチにもう一度行こう。今度は子供たちも連れて」

「でも、あの別荘は……」


愛実が躊躇するのも無理はない。去年の事件であの別荘も美馬家の資産として売却されたはずだった。


「買い戻したんだ。どうしても、あの島にもう一度行きたくて……嫌か?」


愛実は首を左右に振る。


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