愛を教えて ―番外編―
卓巳が仕事から戻ったのは今から二時間ほど前――深夜の十二時を回っていた。

迎えに出てきたのは浮島ではなく万里子。笑顔で迎えられ、卓巳はやっと帰宅したことを実感した。ほんのひと晩離れていただけで、かなり堪えていたことを思い知る。


十七年ぶりに藤臣と個人的な会話をした。

仕事で顔を合わすことはあったが、ろくに話もしてこなかった。卓巳が万里子と出会って変わったように、愛実の存在が藤臣を変えたのだろう。

息子たちに『美馬の人間に気をつけろ』と言った言葉を訂正しなくてはならない。そのことも含めて、万里子の顔を見たとき、卓巳は謝ろうとした。

しかし……。


『ごめんなさい』


先に謝罪を口にしたのは万里子のほうだった。


『美馬さんと会ったことを知られたら、叱られることはわかってたの。でも、八年前から気になっていたことがあったから……。どうしても一度会って話がしたくて』

『八……年前?』

『あなたが美馬さんに取られたと言っていた女性のこと。そのことを、美馬さんに聞きたかったんです』


万里子の言葉に卓巳はドキリとする。


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