愛を教えて ―番外編―

後編

二十二年前の十一月、万里子と卓巳はちょうどこの場所で愛を誓い合った。

それぞれに運命の相手だと感じながら、決して求めることのできない“永遠の愛”に喜びと悲しみを同時に味わった。

その同じ場所で、ふたりの愛により育まれた命が、新たな愛の誓いを立てている。


大樹の選んだ伴侶は卓巳の名づけた娘。

ビスクドールのような肌と金色の髪、青い瞳をしたアビゲイル・マリア・フォレスターだった。



今年の夏、藤原家の五人兄弟は彼らだけでイギリス旅行を経験した。

五男の和哉が中学生になったこともあり、二十歳の結人にすべてを任せることにしたのだ。結局、兄弟は夏休みを丸々イギリスで過ごすことになった。

問題は五人の息子たちが無事に帰ってきた約一ヶ月後に起こる。


男の子、それも中学生ともなればあまり親に近づいてくることはなくなる。遊ぶときは同じ年ごろの友人たちと、相談ごとはまず兄たちにするのが一家の通例になっていた。

そんな中、極めて真剣な表情で大樹が両親の部屋を訪ねてきたら、何ごとかと思うだろう。

そして案の定というべきか……予想外というべきか……


『父さん、母さん……アビーと結婚させてください。お願いしますっ!』

『ああ、わかった。おまえの気持ちは折を見てジェイクにも話しておいてやる。とにかく、今は大学を卒業することを考えろ』


卓巳がそう答えると、唐突に大樹は床の上に正座した。


『そういう訳には…………アビーのお腹には僕の子供がいるんです! だから、今すぐ結婚させてください。お願いします』


一気に叫び、床に頭がつくくらいに下げる。


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