愛を教えて ―番外編―
最前列に座る万里子の足元を冷たい風が吹き抜ける。
花婿の母という初めての役目で、万里子は黒のアフタヌーンドレスを着用していた。花嫁の母であるソフィと合わせたものだ。
万里子たちと同じ結婚式が挙げたいという若いふたりの希望を叶えたものだったが、時期的にかなり寒い。広大な裏庭は背の高い天幕で覆われ、北風とマスコミをシャットアウトする意味もあった。
人の目はともかく、風を完全に遮るのは難しい。
そのとき、万里子の膝にカシミアのハーフケットがかけられた。
「やせ我慢はするな。……もう、いい歳なんだから」
卓巳に“ありがとう”と言いかけてやめ、
「……ひと言余計です」
万里子はわざとらしく横を向いた。
「ったく。アイツは誰に似たんだか……」
祭壇の前に立つふたりに視線をやりながら、卓巳はボソッとつぶやく。
「決まってるじゃないですか。卓巳さんです」
「僕たちは……結婚後だったぞ」
不満そうな顔で卓巳は前を向いたまま答えた。
花婿の母という初めての役目で、万里子は黒のアフタヌーンドレスを着用していた。花嫁の母であるソフィと合わせたものだ。
万里子たちと同じ結婚式が挙げたいという若いふたりの希望を叶えたものだったが、時期的にかなり寒い。広大な裏庭は背の高い天幕で覆われ、北風とマスコミをシャットアウトする意味もあった。
人の目はともかく、風を完全に遮るのは難しい。
そのとき、万里子の膝にカシミアのハーフケットがかけられた。
「やせ我慢はするな。……もう、いい歳なんだから」
卓巳に“ありがとう”と言いかけてやめ、
「……ひと言余計です」
万里子はわざとらしく横を向いた。
「ったく。アイツは誰に似たんだか……」
祭壇の前に立つふたりに視線をやりながら、卓巳はボソッとつぶやく。
「決まってるじゃないですか。卓巳さんです」
「僕たちは……結婚後だったぞ」
不満そうな顔で卓巳は前を向いたまま答えた。