愛を教えて ―番外編―
明日は、卓巳の祖母、皐月の三回忌である。

皐月は生前、内外に産まれる曾孫をとても喜んでいた。宗と雪音の子供たちが訪れるのも、皐月にとっては楽しみのひとつだった。

皐月の夫、高徳が作り上げたこの邸は、いつも淫靡な匂いが漂い、誰もが腐臭に侵されていた。

真実の愛などまともに育める環境ではなく……。

それを、卓巳と万里子の強い愛情で一掃したのである。その証とも言えるのが、曇りも穢れもない子供たちの笑い声だった。

亡くなる直前、いよいよ皐月は一日床に就くことが多くなる。万里子は気遣いから、皐月の部屋近くに子供を行かせないようにした。

だが、皐月はそれを寂しがり……万里子も子供たちの自由にさせたのである。

そして、ふたりの曾孫に贈られた桜の絵を抱き締めながら、皐月は眠るように天に召されたのだった。


万里子は皐月の命日には、できる限りたくさんの子供を招くことにしている。皐月が寂しくないように、邸中に甲高い笑い声が響くように……。

ときには泣き声が加わるのだが、まあご愛嬌だろう。


絢音にズボンの裾を踏まれ、転んで泣き始めた光希を抱き起こしながら、万里子は優しく微笑んだ。


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