愛を教えて ―番外編―
苗木の近くには造園業者と、住み込みの庭師、柊(ひいらぎ)が仕上げの作業をしていた。

柊は卓巳より少し年上だが、土いじりが何より好きだという。彼は少し呆れたような声で万里子に笑いかけた。


「社長は本当に奥様のためとなったら……。でも、これほどの寒さですからね、植樹はギリギリですよ。これからは、もっと早く言ってください。いくら社長に言われても、できないことはあるんですから」


卓巳はいったいどれほどの無茶を言ったのだろう?

万里子は唖然として苗木を見つめる。そこに植えられていたのは、見渡す限りの“桜の苗木”だった。


「一条先生のお宅は一本だったが……。ざっと三十本は植えた。先生の奥さんより三十倍は幸せにしてやるから……羨ましがる必要はない。わかったな」


万里子の頬に涙が伝った。

数が問題ではないのに……万里子はそう思いかけて訂正した。

むしろ、桜の数ではなく『卓巳の心』が重要なのだ。不器用でも、精一杯の思いを示そうとしてくれる。


それを“愛”と呼ばずしてなんと呼べばいいのか。


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