愛を教えて ―番外編―
外はまだ明るい。カーテンを閉めても、電灯が必要ないほどの明るさだ。

だが、ふたりきりの時間は限られている。やはりこのチャンスは何が何でもモノにすべきだろう。

卓巳は万里子の手に自分の手を重ね……。


「……万里子……」


本館の離れに作られた特別室。

十畳と四畳半の和室に三畳程度の茶室、バルコニーのような月見台、専用の中庭まである。もちろん、檜の内風呂つきだ。


春の風に白いレースのカーテンがそよぐ。

残念なことは、中庭には桜の木がないことだろうか。だが、月見台越しに見える新芽の柔らかな緑は、まるで一枚の絵のように美しい。


「万里子、愛してるよ」


振り向いた卓巳の肩越しに、ふたりの唇がかすかに触れた。

特別室が、甘い空気で満たされようとしたそのとき――。


「失礼致します。女将でございます。藤原様にご挨拶に参りました」


玄関口から聞こえる声に、床を叩きたくなる卓巳であった。


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