愛を教えて ―番外編―
内風呂に一緒に入ろうか、と言ってくれるのを万里子は待っていた。

ところが卓巳は『今度はひとりでゆっくり入っておいで』と。

そう言われては、万里子から一緒にとは言えない。恥ずかしいし、子供を産んで“たしなみ”がなくなったと思われるのが怖かった。


でも、すぐそこにいる卓巳が酷く遠くに感じる。

このままどんどん離れて行きそうで……万里子は思わず口を開いた。


「卓巳さん。そこは寒いでしょう? 一緒に……温まりませんか?」


万里子の声に卓巳はハッとしたように内風呂を見た。卓巳のほうからは彼女の顔しか見えないはずだ。


「……いや……。また、君を困らせることになるだけだから……やめておこう」


卓巳の妙に冷めた声に、万里子は切なさが込み上げてくる。


「だったら、いいです。わたし……内風呂があるって聞いて、卓巳さんと一緒に入れるって思って来たのに。卓巳さんたら、人に見られそうなところでばかり……」

「い、いや……あの、万里子?」

「もう、いいですっ!」 


やっぱり卓巳はそういう場所で愛し合うために、万里子を旅行に誘ったのだ。それが卓巳の愛情表現であるなら、万里子はどうすればいいのだろう。

精一杯の誘惑も卓巳には受け入れて貰えず、戸惑う万里子だった。


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