愛を教えて ―番外編―
そんな万里子の様子に慌てたのが卓巳である。

結婚して一年半が経った。息子にも恵まれ、夢のような毎日を送っている。帰ったらいつも万里子がいて、結人と一緒に『お帰りなさい』と微笑んでくれるのだ。

妊娠中は万里子の身体を気遣い、数えるほどしか抱き合うことはしなかった。でも今年に入ってからは……。万里子は卓巳が望むといつでも夫婦生活に応じてくれる。彼女自身、子育てに余裕ができたことも理由のひとつらしい。


経験ゼロの卓巳にとって、夫婦生活は全てが未知の体験だ。

これまで、雑誌やAVなどから知識を得ることもなかった。三十歳を過ぎて、と言われそうだが、そういったモノを目にするとついつい試してみたくなる。今の卓巳は新婚旅行から比べても、中学生が高校生に進級した程度なのだ。

豹柄の水着もそのひとつだった。

あとになれば――夏に地中海の島に行き、プライベートビーチでチャレンジすればよかった、と思う。まさに、後悔先に立たず、である。


これ以上万里子を怒らせてはいけない。卓巳は自重するあまり、今度は万里子から離れすぎたのだった。



「万里子? その……本当に一緒に入ってもいいのかな?」


恐る恐る声をかけながら、卓巳は内風呂に足を踏み入れた。


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