愛を教えて ―番外編―
卓巳は裸にタオル一枚の姿だった。


「卓巳さんがひとりで入られるなら、わたしが上がりますから……」


涙ぐんだ万里子の声に、卓巳は息を止めた。


(万里子を泣かせたのか? 僕はいったい何をやってるんだ! 何をやらせても、男としてまともなことがひとつもできないとは) 


気を回せば回すほど、万里子を困らせ、怒らせて……最後には泣かせてしまう。

あまりの情けなさに、卓巳自身が泣いてしまいそうだ。


「悪い……君を喜ばそうと色々頑張ったんだが。どうも、僕はこういったことは不案内で……。でも万里子、君を愛してるんだ。その気持ちだけは信じて欲しい。君を失ったら、僕は生きていけない。君がそばにいるだけで、気が狂いそうなほど欲しくなる……ただ、それだけなんだ」


懺悔《ざんげ》のつもりで口にした言葉が、万里子の琴線に触れたらしい。


「卓巳さんっ」


万里子は湯船から出て、卓巳に抱きついた。


「万里子?」

「わたしも……ごめんなさい。卓巳さん好みの女性になれなくて」


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