愛を教えて ―番外編―
「万里子、今年に入って大学には行ってないんだろう?」

「はい。取るべき単位はすべて取っていますから。卒論も提出済みですし……。もちろん、授業に出てもいいのだけれど、自宅にいたほうがどこからの連絡も受けやすいと思って」


万里子は控えめにいうが、皐月の容態が急変したときの連絡に違いない。


卓巳も大変だが、この家に慣れていない万里子はもっと大変だろう。

皐月に代わって、女主人としての手配や付き合いをすべてこなしているのだ。結婚の祝い返し、新年の挨拶、皐月への見舞いに対する返礼……。

それらに加えて、年末に卓巳が起こした辞任騒動も人々の口の端に乗り、嫌な思いをさせているかもしれない。

そう考えると、卓巳は堪らなくなった。


「すまない、万里子。自分のことで手一杯で、君のことまで気が回らなくて。本当なら、僕がこうやって君に時間を作ってあげるべきなのに……」


反省すべき点は多々ある。

愛情を示しても示してもどこか的外れで、自分には恋愛適正がないのではないか、と思うときもあるくらいだ。


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