愛を教えて ―番外編―
結果、最終的には『ジェイクっていい人ね』で終わってしまう。

ここ数年、彼には恋人はおろかガールフレンドすらいないのだった。


そして、東京本社の社長である卓巳がロンドンに滞在するたび、ジェイクはこのホテルに呼びつけられるようになる。

そこで出会ったのが……赤毛より少しブラウンに近い髪をした女性だった。

いつもホテルの制服の第一ボタンまでキッチリ留め、子供の世話をするために白いエプロンをつけていた。化粧もほとんどしておらず、ピアスの穴をあけた形跡もない。

――なんて清楚な女性なんだろう。

それがソフィの第一印象だ。

託児室で子供に頬擦りする姿は、ジェイクの大好きなナショナル・ギャラリーの聖母子像“かごの聖母”のマリアを思わせた。その絵のキリストはジェイクの赤ん坊のころにそっくりなのだ。

“かごの聖母”のマリアはジェイクの永遠の憧れだった。



――わずかに開いたドアの隙間から、忙しない声が聞こえ続ける。目を閉じたふたりにとって、それは狂おしいほどの官能の呼び水となった。


ジェイクは舌先でソフィの唇をなぞる。口紅の味のしないキスは初めてだ。思わず、そんなことを考えていた。

ホテルの制服は上下とも紺色で、襟と袖の折り返し部分が白。シャツには金ボタンがついている。スカートは動きやすいようにキュロットタイプ。ソフィはいつも紺色のソックスにローヒールの靴を履いている。


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