愛を教えて ―背徳の秘書―
(所詮、愚か者の悪あがきだ)


万里子は違うことだと言ったが、結果は同じである。

宗は言い訳も何もかも面倒になり、軽く首を振った。


「いえ……いいです。おそらく、誰も信じてはくれないでしょう」

「女を手に入れるためなら、嘘をつくことはある。私も偉そうなことは言えん。だが、人生に何度も使える手じゃない。宗……お前はイソップ童話から学び直す必要がありそうだな」

「もう手遅れですよ。狼に食われて……おしまいです」


余裕を取り戻したわけではない。

だが軽口を叩くようになった宗に、卓巳は真顔で言った。


「真面目にやらんと本当に食われるぞ。――鈴本薫の言動は見逃すな。矛盾があれば裁判で有利になる。山南のほうは警察に問い合わせてみる」

「……社長?」

「私の恋愛経験は言うに及ばんが……。企む女の顔はよく知っている。女ふたりで、お前を嵌める気かもしれん。目を離すな」


卓巳につられ、不審な眼差しを特別室に向ける宗であった。


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