愛を教えて ―背徳の秘書―
空調が整っているはずの部屋が、なぜか息苦しく感じる。

宗はネクタイを緩め、ワイシャツの第一ボタンを外した。


朝美が救急車で運ばれたと聞いてから、まだ半日も経っていない。自殺を仄めかす香織を落ち着かせるや否や、今度は雪音が線路に突き落とされ、宗とふたり危うく死にかけた。


(……なんて一日だ)


雨はまだ降り続いている。夜半までやみそうもない。


雪音を追って駅まで走ったり、線路に飛び降りたり、今さらというほど宗のスーツもシャツもずぶ濡れだった。


そのとき、スッとハンドタオルを差し出された……薫である。


卓巳の言葉に従い、薫から目を離さず特別室に籠もったきりだ。雪音の怪我も気になるが、卓巳が戻るまで動くわけにはいかない。



「スーツがびしょ濡れですよ」

「この雨の中、走ったからね。それに……」


救急口から入る予定で、そっちの玄関に向かったときだった。

救急車がパトカーを追い抜き、搬入口に滑り込んだのである。そのため、宗と雪音は少し離れた場所に降ろされた。


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