愛を教えて ―背徳の秘書―
「一応……彼女の傘を差したんだけどね。あまり意味はなかったな」

「彼女を濡らさないようにって思われたんでしょう? コンビニの傘は小さいから……宗さんは本当に優しいですよね」


薫はうつむき、切なそうな声でポツリとつぶやいた。


「京佳の……嘘だったのかしら」


宗は頭を上げ、正面から薫を見る。


「急にどうしたんです?」

「だって、京佳が宗さんと一緒のところなんて、見たことないんですもの。冷静に考えたら……何かおかしい気がして」


その言葉は、萎えかけた宗の気持ちを、にわかに叩き起こした。


「社長がお戻りになられたら、君の口からそのことを話してもらえますか?」

「ええ。もちろんです……でも、京佳がどうしてあんなことを言ったのか、宗さんはわかりますか?」


薫は大きめのトートバッグを前に抱え、特別室のソファに座ったまま尋ねた。その仕草と薫の言葉に微妙な違和感を覚えつつ、宗は慎重に答える。


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