愛を教えて ―背徳の秘書―
「いや……わからないな。だが、最初は悪気のない作りごとだったんじゃないだろうか? きっと、彼女は私を理想の男に仕立てて、現実の辛いことをやり過ごしていたんだと思うよ」


それは彼の本心だった。

逃げ場に使われる分には一向に構わない。世の中には、卓巳や万里子のように立ち向かえる人間ばかりではないのだ。

誘惑や試練に弱く、流されるままの人間もいる……宗のように。


「でも、悪気のない作りごとでも、人を傷つけたら駄目ですよね? そうは思いませんか?」

「それは……そうだろうね」

「宗さんは怒ってないんですか? 嘘をつかれたんですよ」


薫の憤りもわからないではない。


雪音が殺されかけたのだ。もっと怒って当然かもしれない。だが、宗は怒ることも、怒鳴り合いの喧嘩も苦手だった。

身に危険が迫ったときだけ……それでも基本方針は“逃げの一手”である。


「社長なら烈火の如く怒るだろうね。でも、私はそういうタイプじゃない。ひとまず、死人が出なくてよかった。穏便に済ませるように、なんとか」

「嘘は……赦せないわ。私、嘘は大嫌いなんです。でも……宗さんも嘘をつく人なんですよね」


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