愛を教えて ―背徳の秘書―
実際、それらの仕事はこれまで宗が大部分を受け持ってきた。

それを今回、ほとんど卓巳ひとりでこなしている。おまけに第一秘書の朝美も、宗のふたつ隣の病室に入院しており、日常的な業務も滞ってしまっている。


夫婦でのんびり過ごす、という卓巳の計画は無期延期となり……。当然、卓巳の怒りは宗へと向かう。


「もうっ! 心にも無いことばかり言って。お医者様に『私の秘書を殺したら、ただじゃおかん!』って大騒ぎだったくせに」

「万里子!」

「輸血用の血液が足りないって聞いたら、本社だけじゃなくて関連企業からもAB型の社員を呼び寄せたのよ。そんなには……って病院を困らせるくらい集まっちゃって」

「……社長には感謝しております」


力なく答えると宗は精一杯の笑顔を作った。



山南京佳は事件にはほとんど関与していなかった。

宗に対する感情も単なる憧れ、遊び気分で先輩から聞いた話を脚色して薫に伝えただけ、という。

しかし、本人は否定しているが、薫に対するマイナスの感情もあったようだ、と卓巳は話す。薫が京佳に容姿でコンプレックスを持っていたように、社の支援システムを利用して資格を取り、総合職を目指していた薫が京佳は羨ましかったらしい。


その結果、宗自身は全くあずかり知らぬところで、彼の争奪戦が繰り広げられていたのであった。


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