愛を教えて ―背徳の秘書―
母の日の翌日に会長である皐月が退院し、月半ばには朝美も退院した。

そして五月末、宗もようやく退院の許可をもらえたのだった。


退院を翌日に控え、最後の検査に色々時間を取られた。

酒はもちろんのこと、煙草も綺麗さっぱりやめられて、体調は刺される前よりいいくらいだ。しばらくは自宅療養で週一回の通院が義務付けられている。

問題はその後……。

卓巳に辞職願いは渡してある。とりあえずは松山に帰り、仕事を探してみてもいい。


宗の両親は事件直後に夫婦で上京した。

当初は息子の不始末と怪我の具合に真っ青だったが……。命に別状なく後遺症も考えられないこと、事件の真相と社長に重用されていることを知り、安心して田舎に帰って行った。  


(三十五歳にして無職か……また、親不孝だな)


自分で支払うから、と特別室から一般の個室に変更してもらった。そのドアを開け、部屋に入った瞬間、ひとりの女性が彼の目に飛び込んできた。


彼女はベッド下のカゴからタオルや着替えを取り出し、紙袋に詰めている。

正面の窓から射し込む夕陽が、その化粧っ気のない横顔を照らし出した。


< 140 / 169 >

この作品をシェア

pagetop