愛を教えて ―背徳の秘書―
「ゆ、きね? 何をしてるんだ?」

「明日退院だって聞いて……どうせ誰も手伝ってくれる人なんていないでしょう?」


宗のほうを見ることなく、雪音は澄まして言う。



今回の一件で宗の評判は地に堕ちた。

表向きは卓巳が体裁を整えてくれたし、それがほぼ真実であるのだが……。

宗は元々卓巳の個人秘書で本社社員ではない。ある意味“別格”なため、敵も多い。これまでは女性の間を器用に飛び回り、彼女らを味方につけることで上手くやっていた。

だが、雪音の件で複数の女性と強引に別れ、敵が増えた最悪のタイミングでこの事件が起こってしまう。


――本当はふたりの女子社員とも関係していたに決まっている。社長が揉み消したのだ。


そんな噂が社内を駆け巡った。

これでは、辞表を出さずとも、宗が会社に戻るのはいささか厳しい状況だ。朝美などは真っ先に宗を切り捨てたくらいである。



「ひょっとして、万里子様の命令かな? だったら気にしなくていい。大した荷物じゃないし、持てないものは処分してもらうさ」

「仕事……辞めてどうするの?」


< 141 / 169 >

この作品をシェア

pagetop