愛を教えて ―背徳の秘書―
不意に動きを止め、雪音は宗を振り返った。

彼女の瞳に少なくとも怒りは感じない。


「これ以上、社長に迷惑はかけられないからね」

「三十五で再就職って厳しいんじゃない? 宗さんならホストとかも似合いそうだけど……歳がね」

「……女は、もういいよ」


雪音の皮肉に苦笑しつつ、宗はベッドに腰かけた。


「なんだ。皆に振られて可哀想だから、面倒見てあげようと思って来たのに」

「俺の? 優しいね」

「そうよ。ボランティア精神を発揮してあげてるの。感謝してよ」


宗から視線を外して雪音は口を尖らせた。頬が赤いのは夕陽のせいだけじゃないだろう。

雪音の顔を見ながら、宗は首を左右に振った。


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