愛を教えて ―背徳の秘書―
「俺は好きだよ。愛してる――悪い、大人の分別とやらを身につけようとしたんだけど……できそうもない」


手を差し伸べて、棒立ちになる雪音を引き寄せた。

宗は座ったまま、彼女の身体を抱き締める。


「嫌いよ。オミくん、嘘つきだから」

「ん……ごめん」

「もう一回嘘ついたら、今度は私が刺してやる」

「それ……笑えないんですけど」

「私は本気だから……本気で好きなんだからっ」


宗が身体を離したとき、雪音はちょうど宗を見下ろしていた。


初めてキスを思い出すかのように、ふたりの唇は恐る恐る近づき、重なり合う。久しぶりのキスに、抑え込んだ想いが堰を切ったように溢れ出し……。


入院生活最後の日にふたりは仲直りをした。

そのとんでもない経験に、宗は痛みを堪えつつ……初夏の夜は更けていくのだった。


< 144 / 169 >

この作品をシェア

pagetop