愛を教えて ―背徳の秘書―
「一緒に北海道に行ってもよかったのに……」


万里子は、腕の中に生後一ヶ月の長男・結人《ゆうと》を抱きながら雪音に話しかけた。


「月に一度は帰って来ますし、私も高校卒業資格を取るために、勉強しなきゃいけませんから」


雪音はベビー服を畳みながら、笑って答えたのだった。



宗は八月に仕事に復帰し、二ヶ月かけて引き継ぎを済ませ、卓巳の命令で北海道に向かった。

テキサス州の大牧場主ロード氏との提携業務が、結人の誕生当日に成立したためである。

宗はロード氏の臨時秘書を務めるべく、二年間を目処に北海道と東京とテキサス州を渡り歩くことになった。


雪音の人生を引き受けるなら、この歳でハローワークには通えない。覚悟を決めた宗は、再び卓巳に頭を下げる。

すると、卓巳は冷ややかな視線を宗に向け……。


「わかった。いいように取り計らおう。――好きにしろ。初めからそう言っておいたはずだ」


一生卓巳について行こう。このとき、宗は決意を新たにしたのである。


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