愛を教えて ―背徳の秘書―
(4)危険な秘書室
「おはようございます。中澤さん」


秘書室に入ると一斉に声がかかった。

社長の第一秘書である朝美は、秘書室ではそれなりの実力者だ。宗以外は全員女性ということもあって、小さな嫉妬や足の引っ張り合いは上げるとキリがない。

先代社長のころは、秘書室は大奥なみの序列があったという。

ようするに、お手つきの秘書がゴロゴロいたわけだ。

だが、今の社長にそういった女性は皆無である。現在は結婚して妻に夢中だが、それ以前からも色っぽい噂は全くない男だった。


当然のように、秘書は能力だけで選ばれる。

派手な化粧や流行のファッションに身を包む女性はひとりもいない。それはある意味“社長の趣味”で選んでいると言うべきだろう。



その中で、現在、最も朝美が敵視しているのが、志賀香織だった。

無論、宗との関係も調査済みである。


宗は無責任な言葉は使わない慎重な男だ。だが、耳触りのよい、綺麗な言葉は得意としていた。

『愛している』と言わない代わりに『愛していない』とも言わない。そして、どれほど尋ねても、他の女の話は絶対にしないのである。

『愛』は口にしたことがない……その言葉に、自分ならこの男に愛を教えられるかもしれない。などと女は思ってしまう。


< 18 / 169 >

この作品をシェア

pagetop