愛を教えて ―背徳の秘書―
朝美は驚くが、咄嗟に頭を働かせる。


「どこから出た噂かわからんが、奴に否定するように言っておこう」

「あら……社長、どうして嘘だと思われるんですか?」


ひと呼吸置いて朝美は答えた。卓巳は困惑した様子で声を上げる。


「それは奴には……あ、いや。とにかく、私は宗から何も聞いてはいないのでね」

「そうですか――」

「まさか、そんな話があるのか?」

「社長もご存知だと思っておりました。私と宗さんが二年以上交際していることを」

「いや、だがそれは……」


絶句する卓巳の真意はすぐにわかった。

宗は真剣な付き合いではない、と言いたいのだろう。


「社長のご心配はもっともですわ。でも……男と女には色々な事情が起こるものです。不測の事態とか……お察しください。まだ決めてはおりませんので、このことはご内聞に」


朝美はにっこりと微笑んだ。

彼女は嘘を言った訳ではない。何ひとつ具体的な言葉は口にせず、卓巳に“妊娠”の誤解を与えたのである。


このとき、ドアの傍から立ち去る影には誰も気づかなかった。


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