愛を教えて ―背徳の秘書―
きっと万里子も気づいている。

でも、決して卓巳の顔を潰すような真似はしない。雪音であれば、白状するまで問い詰めるか、ふて腐れて見せただろう。

実際、万里子の横で雪音は憮然とした表情で立っていた。


「それに……銀座に美味しいケーキ屋さんがあるんです。そのついでに寄っただけですから」


そう言って万里子が笑った瞬間、社長室の空気が変わる。


卓巳もホッとした表情になり、万里子の手を取り、ふたりは窓際に近づいた。お互いをいたわり合い、初々しく寄り添う社長夫妻の姿は、見ている者を優しい気持ちにさせる。



「美味しかったよ……シチュー」


ふと気づけば、隣に宗が立っていた。


「外食ばかりって言ってたから」

「うん。今度は肉ジャガが食べたいな」


宗の笑顔は人懐こく、まるで営業マンのようだ。卓巳のような鋭さと純朴さを併せ持つ印象はない。


「……昨夜、会ってた女(ひと)に作ってもらったら?」


優しい気持ちだけではいられない。

それがズルイ男を恋人に持つ、雪音の現実だった。


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