愛を教えて ―背徳の秘書―
彼が就職した法律事務所に同郷の先輩弁護士がいた。

なんとその先輩の妻が、宗の高校時代の彼女であったことがことの発端だ。

――世間は狭い。

それを痛感する宗に先輩の妻は声をかけた。


『高校時代のことを主人に話したら、働き難いでしょうねぇ』


そんな脅迫じみた誘惑に、やすやすと乗る宗も宗だろう。

彼女は宗よりひとつ年上で子供のいない専業主婦。よほど退屈を持て余していたのか、はたまた、宗が主婦に受けるのか。不倫の関係は一度が二度、二度が三度と続いてしまう。

宗はキッパリと断わることができないまま、するずると関係を続け……やがて彼女は妊娠した。

だが時期的に父親がハッキリせず、彼女は怖くなり誰にも内緒で中絶を選択したのだ。

しかし悪いことはできないものである。

すぐに中絶が夫にばれ……彼女は『高校時代のことをあなたに話すって言われて、仕方なく』。

宗に強引に誘われた、と泣きながら話した。責任転嫁もいいところだが、その言い訳を覆せる証拠など宗にはない。

当然だが、先輩は激怒した。宗を訴えるというのを、事務所の醜聞になるという理由で所長らがなだめる。

もちろん宗にも言い分はあった。

だが、不法行為と知りつつ引けなかった責任は大きい。バッジこそ取り上げられなかったものの、新人で推薦状すらもらえない彼を雇ってくれる弁護士事務所はどこにもなく……。


< 4 / 169 >

この作品をシェア

pagetop