愛を教えて ―背徳の秘書―
香織もその言葉の意味を察したのだろう。見る間に青くなり、頬は歪む。
「信じられない……あなたが、そんな」
「社長に直談判されたらお手上げだよ」
心底、被害者のような顔で宗はつぶやいて見せる。
「そんな……そんな……信じないわっ」
香織は口の中で繰り返すと、宗に背を向け、エレベーターに乗り込むのだった。
他の女と結婚してもいい。愛人関係を続けたいと言っていたが……。おそらく本気ではないだろう。
香織自身が結婚願望の強い女だ。
宗の胸に芽生えた同じ思いに、敏感に反応したに過ぎない。女遊びに理解のあるところを見せて、結婚相手に相応しいと思わせようとしたのだろうが……。
宗のような男には逆効果だった。
卓巳のように責任あるポジションにいれば、妻や後継者が必要だろう。だが、表舞台に立つ訳でもない宗に、ステイタスによる結婚は必要ない。
雪音だから……。
彼女の夫となり拘束されてみたいと思えた。そして、雪音を独占したい。歳の離れた自分を捨て、昔の男のもとに戻るんじゃないか、という不安がいつも付き纏っている。
妻に束縛されたい宗にとって、公認の浮気を認める女と結婚することに意味はなかった。
「信じられない……あなたが、そんな」
「社長に直談判されたらお手上げだよ」
心底、被害者のような顔で宗はつぶやいて見せる。
「そんな……そんな……信じないわっ」
香織は口の中で繰り返すと、宗に背を向け、エレベーターに乗り込むのだった。
他の女と結婚してもいい。愛人関係を続けたいと言っていたが……。おそらく本気ではないだろう。
香織自身が結婚願望の強い女だ。
宗の胸に芽生えた同じ思いに、敏感に反応したに過ぎない。女遊びに理解のあるところを見せて、結婚相手に相応しいと思わせようとしたのだろうが……。
宗のような男には逆効果だった。
卓巳のように責任あるポジションにいれば、妻や後継者が必要だろう。だが、表舞台に立つ訳でもない宗に、ステイタスによる結婚は必要ない。
雪音だから……。
彼女の夫となり拘束されてみたいと思えた。そして、雪音を独占したい。歳の離れた自分を捨て、昔の男のもとに戻るんじゃないか、という不安がいつも付き纏っている。
妻に束縛されたい宗にとって、公認の浮気を認める女と結婚することに意味はなかった。