愛を教えて ―背徳の秘書―
古参のメイドたちに受けのよくない雪音は、失敗すれば彼女らの嫌味の対象となってしまう。


『若奥様が可愛がってくださるからといって、調子に乗らないようにしなさいね』

『お化粧やら、髪型やらに気を配るのは結構なことですけれど……。もし結婚するなら、早めに言ってちょうだい』

『歳が近いとはいえ、あなたは使用人。社長夫人の万里子様とは身分が違います。それを忘れては駄目よ』


それくらいのことはわかっている。

中堅企業とはいえ社長令嬢で、立派な大学を卒業した万里子と自分など、比べ物にもならない。

おまけに、万里子は英語も話せて教員免許まで持っている。一方、高校中退の雪音は英語どころか日本語すら怪しい。普通自動車の免許すら持っていないのだ。

それに決定的な差は人格だろう。


今回のことにしても、


『印刷前に気づいたのだから、大したことじゃないわ。印刷所の方に感謝しましょう。ねえ、雪音さん……何か悩み事があるなら、わたしでよかったらいつでも相談に乗るから』


とまで、万里子は言ってくれた。


普通なら『何をやってるの!』と怒られて当然だ。第一、雪音のミスはこれだけではない。ここ最近、些細なことも含めて失敗ばかり繰り返している。

原因はひとつ……宗行臣だった。


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