愛を教えて ―背徳の秘書―
不真面目で、話半分でしか聞けない宗が、恐ろしいほど真面目な顔で言ったのだ。

その瞬間、雪音の心は一気に崩れた。

それまで必死に『本気になっては駄目』と押さえ込んだ想いが、弾かれたように吹き出してくる。


「それは、それって、その……」


今日は宗のマンションである。

この間のように、我慢できなくて狭い車で身体を重ねたあと、エレベーターの中で最後までしてしまう。なんて真似はしていない。

雪音が作った夕食をふたりで食べ、宗はソファで寛いでいるが、雪音には洗い物が残っていた。


「その……何?」


宗は笑いを含んだ顔で雪音に手招きする。


ずるい――と思った。


雪音はひとりぼっちなのだ。

父は雪音といくつも違わない女と再婚して、六歳になる息子がいる。母も再婚して、義父の連れ子ふたりと仲よくやっていた。

帰る場所も行く場所もない……雪音がヒモ男と離れられなかった大きな理由がそれだった。


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